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アクアリウム

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− プロローグ −

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日本には「金魚( Gold fish )」という、世界的にも稀有な文化が存在するため。
「観賞魚」という、文化・考え方が普通に存在していますが。

実は欧米、と言うより。日本と中国以外、世界的には、元々このような文化は存在せず。
また。元となった中国での金魚飼育は、文化大革命等の影響により。大きく後退しているのが実情であり。

現在、世界に広まっている。「観賞魚飼育」の文化は、実は日本の文化によるものが大であると言えるでしょう。


五百年の歴史を誇る日本の金魚。

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前史としては。

日本では、江戸前期に始まった金魚の養殖が。中期(18世紀)頃には、メダカとともに、庶民の文化として定着しており。
富裕層においては、舶来物のガラス水槽(ガラスの器)で観賞されていました。
一方欧米での、「魚をめでる」文化が一般人に広まったのは。近代(19世紀)に入ってからとされています。

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科学的には。

「フナ」の染色体は。例えば身近な動物では、「犬」と同じように。体の特徴を位置付ける染色体が複数存在する、「倍体(倍数)」なので。
体色・体形共に、極めてバリエーション(突然変異を起こしやすい)に富むのが特徴です。

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− 分類 −

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まず 「単独飼育(フィギュア)」 と 「情景水槽(ジオラマ)」 に分類されます。

水槽飼育の発展系として、海水魚飼育や。水を使わない、テラリウム等もありますが。ここでは小分類は割愛させていただくとして。

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単独飼育は金魚飼育と同じ趣向で。犬や猫と同じような、ペット感覚に近い飼育方法です。

単位水量あたりの生体(動物)比率が高く、「水替え」「水質浄化」「餌質」等が重要で。
飼育固体の質を高める要素が、ブリーダーによるところが大きいのが特徴です。

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一方情景水槽は、自然環境をモチーフとしていると同時に。
自然の水質浄化機能を、結果的に「水槽内に再現」するかたちとなるため。
飼育する魚(動物)の量によりますが、植物の生体活動により、BOD(生物化学的酸素要求量)が低く抑えられ。

自発的な恒常性があり。極端な話、「放ったらかし」でも維持できる飼育方法とも言えるでしょう。

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− 飼育技術 −

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水槽飼育技術は、硝化細菌の登場(発見)により大幅に進歩しました。

この効果は、昔から「経験則」として存在しており。「タネ水(飼育済み水槽水)」等がよく知られていますが。
「分子生物学」の研究により、生体分子の立体構造・化学変化のメカニズムの研究が進み。
「環境問題」の対策研究とも共通項が多いこともあり。21世紀に入り、現代社会の中核をなす要素となり。

研究レベルにおいては、「完全に閉ざされた水槽」内での長期間の飼育も可能になっています。
(光エネルギーの供給のみ)

金魚飼育は、

五百年以上続く日本の伝統文化です。
( ← 大森松男著「金魚の飼い方」)

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それゆえ日本は、伝統的飼育方法が、

大変多く受け継がれていて。

世界的にみても珍しい程、

高度な「観賞魚飼育」技術を有します。

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趣味の分野への波及効果。

前記の「研究レベル」の成果は、環境対策や事業レベルはもちろん。
身近な水槽飼育にも、大きく影響を及ぼしていて。その最たるものが「水槽の小型化」が挙げられるでしょう。

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日本の住宅事情との兼ね合いから、水槽は時代と共に小型化の一途をたどって来ましたが。

本来、小型水槽は水質浄化能力に乏しく。
これを補うためには、昔は「水量を増やす」しか方法が無かったため。
今でこそ、90センチ水槽は大型とも言えますが。本来は90センチが「基準」で、実は60センチ水槽は「小型水槽」と呼ばれていました。


魅力溢れる小型水槽。近年では幅10センチ前後の物も登場しています。

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ただし。その実、水槽は大きい方が管理は楽になります。
極端な話、写真のような極小水槽においては。例えば魚が一匹死んだら、数時間以内に処置しないと。

あっという間に全滅してしまうことでしょう。

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また。気を付けなければならないのは。バクテリアは、化学薬品でも触媒成分でもないという点です。

つまり「生き物」ですので、死んでしまっては効果がありませんし。活動環境が揃わないと、本来の効果は発揮しません。


バイオ添加剤。「自然界の浄水システム」を利用しています。

余談ですが。

昔。縁日ですくった金魚は、三日で水が白くなり、一週間で死んで。「金魚のお墓」になるのが常でした・・・。
もちろん、こうして子供は生き物の尊さ、儚さを学ぶ訳ですが。
生物ろ過・バイオ添加剤等を使えば、すぐに「こなれた水」が出来上がるようになったので、こうした悲劇も少なくなりました。

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− 飼育装置 −

光の、植物に及ぼす影響の研究も進んでいます。

この事はまだ、研究の余地が残っている分野でもあるため。
水槽機材面にも、それほど積極的に取り入れられていませんし、知名度も低い事象ですが。
「成長に必要な波長の光」、「花を咲かせるに必要な波長の光」等。「分光」に対応する成長因子の発生メカニズムの研究も進んでいます。

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水槽機材では今のところ、ここまで具体的効果を発揮する製品は作られていませんが。

魚の色を鮮やかに見せる照明や、生息域の光に近い色を再現する物などが発売されています。


様々な照明装置。用途に応じて適用されています。

「白熱球」「蛍光灯」「メタルハライド」「LED」等があり。熱を持つ白熱球は爬虫類、蛍光灯は水草、メタハラは海水のように、用途に応じて適用されています。

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以前の照明装置は、魚の生活リズムを作るのが目的だったので。それ程強い光量を必要としていませんでしたが。
照明技術の進歩により、極めて多くの「水草」が配置できるようになりました。

これにより、魚の飼育量にもよりますが。
水槽内に発生する毒素を、前記の硝化細菌の作用を経て、「最終段階」まで分解・除去できるようになりました。
アンモニア(見えない汚れ)を前記の硝化細菌により硝酸塩に分解。更には生成した硝酸を、肥料として、水草に吸収させる事ができるようになり。

まさに「水槽」という、小さな閉ざされた世界に、循環系を構築する事ができるようになったのです。


本当の意味で、水槽内に窒素循環を完成させる事は難しく。
実現させるためには、細密な成分調整・機材性能が必要になりますが。
市販の機材を使って。個人の水槽でも、およそこれに準じたシステムを、構築できるようになりました。

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チョッと難しい話ですが、要約すると、つまりこれは水換え頻度が減少する事を意味します。

水換えを怠る事は、オーナーの怠慢のようにかたられる事が多いのですが。
そもそも水換えとは、水槽内に環境の変化をもたらし。魚にショックを与える、リスクの高い作業であり。

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本来できる限り避けたい作業な訳で。つまり、ろ過装置と照明装置の進歩は。

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超小型水槽の登場や、飼育スタイルの変化をもたらし。
その上、水槽環境の安定化により、初心者にも優しい、その敷居を下げる役割を果たしたとも言えるのです。

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− 更なる発展 −

ろ過装置・照明装置の進歩は、前記の通り。「初心者にやさしい」アクアリウムの門戸を開きました。
しかし一方で。上級者の飽くなき挑戦は。これとは反対に、更に高度な飼育方法をも生み出しました。

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「水草」を、水質浄化作用以上に多く用い、水草そのものの美しさを中心に表現する手法です。

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限られた水量の中で、大量の水草を植え、強力な照明により強い光合成作用を起すと・・・。当然、これまでの水槽飼育では「大敵」だった炭酸ガスが逆に欠乏する訳ですが。何とこの、炭酸ガスをあえて添加するという方法が出現したのです。(また。水草に添加する肥料も、生物化学的酸素要求量を引き上げる。魚にとっては、ある意味毒です)

これにより。今まででは考えられないほどの、大量の水草を導入する事が可能になり。レイアウト技術も進み、サブカルチャーの域まで達しました。
いわゆる「ネイチャー・アクアリウム」の登場です。

技術と手法が、専門家の手により、芸術の域に達し。実際、コンテストに出展するようなレイアウトにおいては、まさに「息を呑む」美しさを持つようになったのです。


息を呑むほど、鳥肌が立つほど美しい、コンテスト仕様のアクアリウム水槽。

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ただしこれは、メンテナンスの簡素化とは逆説的手法ですので、初心者の人は注意が必要です。

例えば、水草は相当スピードで成長し、具体的にはトリミング頻度も短くなります。高度な水槽においては、かなり煩雑な操作・作業を必要とし。美しさを保つのには、相応の手間が必要となります。
更には水槽内環境が、常に飽和状態に近く。前記の初心者対応とは逆の意味を持つ、上級者テクニックとも言えます。

挑戦する際は、ある程度の準備・勉強が必要となりますので。相談できるショップ等を探してから始めるのが良いでしょう。

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− 最後に −

新進気鋭に思われがちのアクアリウムですが。金魚は前記通り、五百年の歴史を持つ、日本の伝統文化です。

金魚はこれ程の「伝統」を持ちながらも、国宝・文化財等とは全く異なる、庶民の文化として、人々に愛され続けてきました。
そして、これからもずっと。水槽飼育の持つ、心を癒す文化は。アクアリウム・テラリウム等。

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呼び名は変わりながらも、私たちの生活と共に、あり続けるでしょう・・・。


大森松男著「金魚の飼い方」。

アクアリウムフェア。
伝統の金魚も、オシャレの先端アクアリウムも。目指しているものは一緒と言えるでしょう。

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Hat Full of Stars