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盆栽

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− 位置付け −

五百年以上の歴史を持つ、日本の伝統文化です。
長い年月に培われた、伝統技法と美的センスは。「流行」とは対照的な、圧倒的完成度を誇ります。
伝統ある展覧会や、著名な盆栽美術館の所蔵品等は、まさに息を呑む程の美しさと迫力です。

貴重な作品や、文化財的価値を持つ作品も多いため。

「 個人の趣味としての盆栽 」と、「 文化財的な価値を持つ盆栽 」と。同じ盆栽でも、かなり二極化が見られる趣味でもあります。

左) 大宮盆栽美術館(旧市谷高木盆栽美術館)所蔵。世界に誇る文化財的盆栽。

右) 当サイト作者が作った八房ニレゲヤキ一年生。
    一般的には、ほとんど価値が認められない、完全趣味の盆栽。

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− 盆栽と鉢植えの違い −

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「盆栽」という言葉の概念を捉えるには。

「 盆栽 」と、普通の「 鉢植え 」植物の違いを理解するのが近道と言えるでしょう。

盆栽も鉢植えの一種ですが。人の手による「演出」が加えられているという部分が、普通の鉢物とは異なります。即ち。
幹の形状、枝の配置。木肌の荒れや、植木鉢の色まで。

盆栽は、作者の意思が込められているのです。つまり、「意匠を持った鉢植え」が盆栽ということになります。

極めて形が悪い、見苦しいとも言える鉢植えニレゲヤキ。

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盆栽と比較するために、あえて形の悪い物を引き合いに出しました。
(作者所有物。親木のため、形は関係ないものです)

小葉性(コバショウ:葉が小さい)のため、部分的に見ると樹木に見えますが、
盆栽としての演出が加えられていない。

素のままの鉢植え植物です。

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親木の場合「性分(性質)」が良くないと、良い子木が取れませんが。
経験上、この親木は、性分は悪くありません。

つまりこの木は、性分が悪いのではなく。
育成するにあたり、「こういう形にしたい」という、演出・意思が無いということで。

故にこのニレゲヤキは、盆栽の親ではありますが。
盆栽ではなく、ただの鉢植え、となります。

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親木(鉢植え)から、「盆栽」ができるまで。

枝を切って挿し木し、発根したら針金をかけて整枝し、養生して、見せるときに化粧鉢に植えます。
真ん中の状態で盆栽となします。よく見ると、針金がかかっています。

盆栽と言ったら、「植木鉢」も重要ですが。
その実、養生するには素焼き鉢の方が好ましく。化粧鉢に植えるのは通常、観賞する時のみとなります。

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盆栽技術とは。

「 葉を小さくする技術 」、「 枝を増やす技術 」、「 幹を太らせる技術 」等等。
盆栽技術の数々は。目を見張るものがあり。これ程、多彩な技術の植物栽培技術は、世界的にも類を見ないものです。

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小さな鉢に、大木のような風格を具えた「樹木」が植わっている姿は。印象深いものですが。

なぜ、十数メートルの大木が「手のひらサイズ」になるのか?。
樹木の持つ「フラクタル」の要素を利用しているため、というのが答えです。

左) 「放棄立ち」樹形で有名なケヤキの木。

右) ケヤキの「枝」。このように、枝の写真も、立てれば立ち木のように見えます。

フラクタルとは、「一部」を拡大すると、「全体」と同じ形になる事で。
実際、例えば樹木の枝を切り落とし、地面に立てると。何だか、それだけで「一本の木」のような形になります。これがフラクタルの効果です。

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− ソイルテラリウムは「寄せ植え盆栽」の延長線上 −

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アクアリウムのページでも紹介した通り。
盆栽も、「単品」で育てる方法と、「寄せ植え」として、全体のバランスを取りながら育てる方法とがありますが。

ソイルテラリウムは、「水槽の中に森を作る」という。

文字通りの情景レイアウトなので、盆栽においても、「寄せ植え盆栽」の技術が中心になります。

渓流風景を再現するソイルテラリウム

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バランスの観点から考えると、ソイルテラリウムの場合。

樹木高約15センチ、魚の体長約1.5センチ、水深約10センチなので。

若干魚が大き過ぎる、1/50スケール程度と言えるでしょうか。

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鉢植え植物の寄せ植えですと。
ホームセンターなどでもよく見かける。「コニファーの寄せ植え」等が有名で。園芸雑誌の紙面を飾る常連でもあります。

しかし。
例えばコニファー等。普通の鉢植えで寄せ植えを作る場合、色々な種類の植物を植えますが。
盆栽で寄せ植えを仕立てる場合、通常は一種類で構成します。

なぜ盆栽は一種類で寄せ植えするのか?
二つ理由があり。一つは「栽培方法」上の理由、もう一つは「景観」上の理由となります。

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植物にはその種類ごとに適した栽培方法があるため。(土壌成分の違い、自生地の温度・湿度、日光の強弱など。)
本来、一つの盆上(鉢)に、複数種の植物を植えることは難しいと言えます。

草本性植物の寄せ植えや、コニファーの寄せ植えなら通常。数ヶ月から精々一年程度で植え替えを行うため、あまり問題になりませんが。
盆栽はもっと長いスパンで栽培するため、これは大きな問題になり。

「草物」(草本性植物)による寄せ植え

← 全体的バランスをとり、植木鉢にも演出が施された寄せ植え。

もちろん、これらの寄せ植えは、毎冬に紙面を賑わし、
もはや「サブカルチャー」の域まで達しているものなので。

決して批判する趣旨ではありませんが。

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美しく演出された鉢物は本来、盆栽に近しい趣旨のものですが。

個々の植物の栽培方法が違うため、長期栽培には向きません。

つまり盆栽は、数十年先の姿を考えながら仕立てるため。数ヶ月で植え直す鉢物と異なり。
栽培方法の違う植物を、一緒に植える事は不可能なのです。

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もう一つの理由は、あまり語られる事が無いものですが。景観上の理由が挙げられます。


左:木曽ヒノキ 右:東北地方ブナ林

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この写真にあるように、「原生林」と呼ばれる自生地では。年月の経過と共に「淘汰」が進むため。

一種類の樹木が「支配的」に、その環境範囲を覆うのが一般的です。

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これは実際の「森林」を観察すれば分かりやすいと思われますが。例えば「東北のブナ」、「木曽のヒノキ」という具合に。
自然林は、その地域の生育条件に最も適した植物種が、支配的に自生します。

つまり逆に言えば、一つの盆上に、色々な種類の植物を植えるのは不自然なのです。

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大宮盆栽美術館 : 八房エゾ松寄せ植え

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素晴らしい、盆栽の寄せ植えです。

元々、自身に盆栽の趣味は無く、ソイルテラリウムの試作品を作り始めた頃は、普通の鉢植え植物を植えていたのですが。
その後大宮の「曼青園」様で、本格的な寄せ植え盆栽を目にしたのですが。正直カルチャーショックを受けた次第です。

「この素晴らしい、ミニチュアの森を。部屋の中で再現したい」。その時、強くそう思ったしだいです。

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また。このような高度な寄せ植え盆栽で、もしも違う種類を植え。
その内一本でも枯れてしまったら大変です。バランスを取り戻すのに、膨大な時間と労力を必要とする事でしょう。

だから一種類で構成するのです。

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− 最後に −

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金魚同様、盆栽も、中国より伝来した文化の一つです。

しかしこれも金魚同様に。古来の文化を変貌させる近代情勢の中で、中国の盆栽(中国語で「盆景」)には。
日本の盆栽程の「こだわり」が見られないようになってしまい。

作者の意思を反映させる盆栽文化は、「こだわり」という、作者の「意思」を失った瞬間。
ただの「鉢植え植物」へと戻ってしまう訳で・・・。

むしろ、発祥地であるはずの中国盆栽は、普通の鉢植えに近いものであるという現状から鑑みても。
もはや、日本の盆栽は「独自の文化」と言って過言で無いでしょう。
(この事象を表記するのは難しいのですが、植物そのものに施す栽培方法としての「こだわり」と解釈して下さい。)

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金魚の説明で、観賞魚の飼育法は。世界で類を見ない程、独自性の強い、日本オリジナルのもの。と記しましたが。
実は盆栽も同様の物と言える訳です。(ただ、金魚に比べ。対象年齢層が狭い事もあり、少々敷居が高い感があるでしょうか。)

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欧米にまで広まった盆栽文化

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← フリー素材からお借りした、寄せ植え盆栽写真。

アメリカ・コネチカット州で撮影されたそうです。

またこれも金魚同様。
世界的に盆栽は「BONSAI」という言葉で、日本発のサブカルチャーとして発展しています。
ただ盆栽の場合、「土」がほとんどの国で輸入禁止に指定されているため。その点では観賞魚等より、難しい部分があるでしょうか。

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反面。観賞魚に比べ、「植物を身近に置いて育てる」という文化は。万国共通とも言える程のものである訳で。
つまり、盆栽そのものを輸出するのは難しいにしても。

ただ漠然と樹木を育てるのではなく。

少しでも「作者の意思を込めて育てる」という、「日本の盆栽の心」を輸出する事は可能であり。

その為の文化の土壌は。

最初から、その国その国に整っているとも言えるでしょう。

盆栽文化が、発祥地中国ではなく。日本のものが広がった理由が、ここにもあると、私は感じております・・・。

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Hat Full of Stars